「英語さえできればいい」のか?
あなたの周りにもいませんか?
TOEICの点数は高いのに
実はあんまり「話せない」って人!
何を隠そう、そのさんも
30歳で外資系への転職を
決意した時点では
仕事で英語を使った経験は皆無!
スコアの割には「話せない人」の
ひとりでした。
いざ、転職活動スタート。
幸い、TOEICスコアが高いので、
人材紹介会社からくる求人情報は
「英語」が必須のポジションばかり。
忘れもしない、
ゴールデンウィークを
間近に控えた4月下旬。
横浜市の米系精密機器メーカーの
面接に行きました。
その会社の社長と人事部長は
そのさんの履歴書に「TOEIC935点」と
書いてあるのをみて
「これはすごい!」
と、日本語の面接だけで、採用決定。
なんと、本当は、米国本社との
英語面接があるはずだったのに、
それをすっ飛ばして、
ゴールデンウィーク前に内定が!
そのさんの外資系への転職が
決まりました。
入社初日。
そのさんが初めて仕事で英語を話したのは、
来日していたプロマネ(Product Manager)、
Fさんにご挨拶したときの
Hi. Nice to meet you! I’m Chieko.
でした。
そこから、そのさんの、16年に渡る
怒涛の外資系英語生活が始まるわけです。
当時は、社員20名ほどの小さな会社です。
本社工場から誰かが来日するたびに
ミーティング、ディナー、出張同行、と
次第に英語の仕事にも慣れてきました。
アメリカ出張も何度かこなし、
アメリカの空港で
「目的は?」と聞かれて
「ビジネスです」と答える姿も
だんだん板についてきた!
そんなこんなで
慌ただしく数年が過ぎました。
その間にも
会社はM&A(吸収合併)を繰り返し
気がついたら社員は200名ほどに。
取扱製品も増えて、来日する人も増え
マーケティング担当として忙しい毎日。
これは、今から10年ほど前に
アメリカ本社の主導する
あるIT関連のプロジェクトに
参加したときのこと。
そのさんが、
「英語ができるだけではダメなんだ」
と思い知る出来事がありました。
そのITプロジェクトの遂行のため
フロリダのトレーニングセンターに
世界各国からマーケティングと
ウェブ担当者が集められました。
集められた目的は、
プロジェクトのために必要な
「ITスキル」の習得。
いわば、ITトレーニングです。
先生役はアメリカ人の
マーケティングダイレクターEさん。
このプロジェクトのリーダーです。
もちろん英語ネイティブ。
部屋をざっと見渡すと
40名ほどの参加者のうち、
半分はアメリカ人。
残りは、そのさん含め各国から
参加しているマーケティングの
担当者やマネージャー。
フランス、ドイツ、スペイン、
イタリアなど、ヨーロッパからきている
人たちが多かったようです。
当時、アジアから参加したのは
日本だけだったので、
アジア人はそのさん一人。
セミナールームに一人1台PCを
持って集まり、いざITスキル
トレーニングスタートです。
リーダーを務めるアメリカ人の
ダイレクターEさんが、自分の
PC画面をプロジェクターで
見せながら次々と進めていきます。
ところが、
このアメリカ東海岸出身のEさん、
めちゃくちゃ早口!
いわゆる
「テクニカルターム」満載で
「ネイティブっぽいイディオム」も
バリバリ盛り込まれた
すごいプレゼンが続きます。
ちなみに
当時のそのさんの英語力は
だいたいこんな感じ。
ーーー
とりあえず「慣れ親しんだ内容」なら
仕事はじゅうぶんできる。
ふだん使わない語彙や表現が
出てくるとついていけなくなるかも?
ーーー
強いて言えば、
「中の上」くらいのレベル
でしょうか。
ITスキルに関しても
一通りのことはわかるけど
いつも使わない用語が多発されると
頭まっしろ、というレベルです。
こちらも、まあ
「中級程度」でしょうか。
ーーー
ITトレーニングセッションが
始まってまもなく、そのさんは
すぐ近くの席のフランス人の女性、
スイス人の女性と仲良くなりました。
フランス人のMさんは、
エレガントで個性的なワンピースに
ショート丈のジャケット。
メイクもばっちり決まってます。
しかもパッと見、
ダイアナ妃に似たルックス!
スイス人のDさんは、
今回の参加者の中では年齢高め。
50代中頃でしょうか。
物静かな、でも意志の強そうな
黒い眼を持つ、くっきりした
顔立ちの小柄な女性。
話すときは、小さい声だが
はっきりと自分の意見を言うタイプ。
ーーー
フランス人、スイス人、日本人の
私たちが仲良くなったきっかけ、
なんだったか、わかりますか?
実は
「ねえ?あのアメリカ人、
何を言っているかわかる?」
「英語が速すぎて、何言ってんだか
さっぱりわからないわ!」
「アメリカ英語ってどうして
こんなにスラングが多いのかしら」
「そもそも私、IT苦手なのよ。
もっとゆっくり説明して欲しいわ!」
という、ヒソヒソ話。
まさかの
「アメリカ人の英語に対する不満」
が、私たちを結びつけた
きっかけだったのです。
ーーー
私たちがヒソヒソ言っている
いっぽうで、アメリカ人Eさんの
レクチャーはますますペースアップ。
だんだんと画面の切り替え速度に
ついていけない人が出てきます。
とうとう、
エレガント個性派のフランス人Mさんは
レクチャーを聞くのを諦め、
自分のPCで別のウィンドウを開いて、
別の作業をやり始めました。
スイス人Dさんも、もともと
IT苦手なので、すっかり
「心ここに在らず」モード。
そんな雰囲気の中、
ITトレーニングは半日続き、
最後におきまりの
「Q&Aセッション」つまり
「質疑応答」の時間がやってきました。
ここで
そのさん、思い切って
ある行動に出ます。
一通り技術的な質問が終わった後
そのさんも勇気を出して挙手。
トレーナー役の
アメリカ人Eさんの目をまっすぐみて
「一つお願いがあります」
と切り出しました。
「ここに参加しているのは
アメリカ人だけじゃなく、私のように
いろいろな国から来た人がいます」
さらに続けます。
「なので、
皆に向かって話をするときは
アメリカ人しかわからないような
スラングを避けて、もう少し
ゆっくり話してもらえませんか?
これは、グローバルチーム向けの
トレーニングですよね?」
・・・
部屋の中は
シーンと
静まり返った感じ。
しばらくして
アメリカ人Eさんは
「ええ、わかったわ。ありがとう」
と言って
その日のトレーニングは終了。
トレーニングの後は、
参加者みんなでディナーです。
ディナー会場へ向かおうと
部屋を出た途端、そのさんに
話しかけて来た人たちがいました。
主にヨーロッパの人たちでした。
「あなたの言っていること、本当に正しいわ!」
「実は、僕もわからないと思っていたんだ」
「言ってくれてありがとう!」
・・・なーんと。
私たちの他にも、アメリカ人の
早過ぎる英語に、不満を持っていた
人たちがいたのでした。
そのさんの発言の顛末を見ていた
スイス人のDさんもニヤッと笑っています。
「Good job, Chieko!」
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いかがでしょうか。
私たちは、
英語の勉強を続けるうちに
ついつい、
「ああ、英語さえ、できればなあ!」
「ネイティブみたいに話したい!」
と考えてしまいがち。
でも、仮にあなたが
ネイティブ並みの英語が話せても
相手が理解してくれなければ意味がない。
世界には、なんと
17.5億人の英語を話す人がいます。
そのうち、ネイティブは、というと
たったの3.9億人。
つまり、
ネイティブの方が少ないのです。
国際社会で大切なのは、
英語を流暢に操れること、ではなく
相手に合わせたコミュニケーションが
取れること。
そのさんの質問(というかコメント)は
決して流暢な英語ではなかったです。
それでも、私は、手を挙げて発言し
アメリカ人Eさんに伝えたいことを
伝えることができました。
(実際は、心臓バクバクでしたけどね)
このとき、そのさんは
「英語ができる、だけではダメなんだ」
「英語ができるよりも大事なことがある」
と学んだのです。
つまり、裏返すと
「英語さえ」できればいいという思い込みは捨てるべき
ということ。
このときの経験が、そのさんが
ビジネス英語トレーナーとして
活動するときの
「もっと自信を持って
堂々と話せる人を増やしたい」
という思いに繋がっています。