アメリカ人はグローバル?
話は、今から10年ほど前。
そのさんがアメリカ出張した時の話です。
アメリカ・フロリダにある
「トレーニングセンター」に
世界各国からマーケティングとウェブの
担当者が集められました。
集められた目的は、米国本社の主導する
あるプロジェクトのために必要な
「ITスキル」の習得。
いわば、ITトレーニングです。
先生役は、
アメリカ人のマーケティングダイレクター。
このプロジェクトのリーダーのEさんです。
トレーニングルームをざっと見渡すと
およそ40名ほどの参加者のうち、
ざっと半分はアメリカ人。
残りは、そのさん含め、世界各国から
参加しているマーケティングマネージャーでした。
フランス、ドイツ、スペイン、
イタリアなど、ヨーロッパからきている
人たちが多かったようです。
当時、アジアから参加したのは
日本だけだったので、会場にアジア人は
そのさん一人だけ。
セミナールームに一人1台ずつPCを
持って集まり、いざトレーニング開始。
リーダーを務めるEさんが、
自分のPC画面をプロジェクタで見せながら
次々とレクチャーを進めています。
ところが、
このアメリカ東海岸出身のEさん、
めちゃくちゃ、早口!
しかも
「テクニカルターム」満載。
英語も、
「ネイティブっぽいイディオム」が
バリバリ盛り込まれた、
ハードなプレゼンが続いています。
ちなみに、
当時のそのさんの英語力は、というと・・・
ーーー
「慣れ親しんだ内容」なら
仕事はじゅうぶんできる。
ふだん使わない語彙や表現がたくさん
出てくるとついていけなくなるかも?
ーーー
強いて言えば
「中の上」くらいでしょうか。
ITスキルに関しても
とりあえず一通りのことはわかるけど
いつも使わない用語が多発されると
頭まっしろ、というレベルです。
こちらも、まあ「中級程度」でしょうか。
ーーー
ITトレーニングセッションが
始まってまもなく、そのさんは
すぐ近くの席のフランス人の女性、
スイス人の女性と仲良くなりました。
フランス人のMさんは、シンプルながらも
個性的なワンピースにショート丈のジャケット、
メイクもばっちり決まってます。
しかもパッと見、ダイアナ妃に似たルックス!
私のイメージするパリジェンヌ像に
ぴったりの、素敵な女性。
スイス人のDさんは参加者の中では
おそらく年齢層高め、50代中頃でしょうか。
物静かな、でも意志の強そうな眼を持つ、
くっきりした顔立ちの小柄な女性。
話すときは、小さい声だがはっきりと
自分の意見を言えるタイプ。
フランス人、スイス人、日本人の
私たちが仲良くなったきっかけ、
なんだったか、わかりますか?
実は
「ねえ?あのアメリカ人、何を言っているかわかる?」
「英語が速すぎて、何言ってんだかさっぱりわからないわ!」
「アメリカ英語ってどうしてこんなにスラングが多いのかしら」
「そもそも私、IT苦手なのよ。もっとゆっくり説明して欲しいわ!」
という、ヒソヒソ話。
まさかの
「アメリカ人の英語に対する不満」
が私たちを結びつけたきっかけだったのです。
私たちがヒソヒソ言っている
いっぽうで、アメリカ人Eさんの
レクチャーはますますペースアップ。
だんだんと画面の切り替え速度に
ついていけない人が出てきます。
とうとう、個性派のフランス人Mさんは
レクチャーを聞くのを諦め、
自分のPCで別のウィンドウを開いて、
別の作業をやり始めました。
スイス人Dさんも、もともと
IT苦手なので、すっかり
「心ここに在らず」モード。
そんな雰囲気の中、ITトレーニングは
半日ほど続き、最後におきまりの
「Q&Aセッション」
つまり
質疑応答の時間がやってきました。
ここで、そのさん、ある行動に出ました。
これまでのそのさんの経験上
そのさんの勤務先では、こうした会議や
トレーニングの締めくくりには参加者からの
「質疑応答」や「フィードバック」の
時間を設けることが多いのでした。
この日も、トレーニング内容についての
テクニカルな質問がいくつか出ていました。
そのさんも、一番最後に勇気を出して挙手。
トレーナー役のアメリカ人Eさんの
目をまっすぐみて
「一つお願いがあります」
と切り出しました。
「ここに参加しているのは
アメリカ人だけじゃなく、私のように
いろいろな国から来た人がいます」
さらに続けます。
「なので、皆に向かって話をするときは
アメリカ人しかわからないような
スラングは避けて、もう少しゆっくり
はっきり話してもらえませんか?
これは、グローバルチーム向けの
トレーニングですよね?」
・・・
部屋の中は
シーンと静まり返った感じ。
アメリカ人Eさんは
「ええ、わかったわ。ありがとう」
と言って、
その日のトレーニングは終了。
ーーー
ミーティングの後は、参加者みんなで
ディナーです。
ディナー会場へ向かおうと部屋を出た
そのさんに話しかけて来た人が何人かいました。
「あなたの言っていること、本当に正しいわ!」
「実は僕もわからないと思っていたんだ」
「グローバル、って言いながら、アメリカンだよね!」
「言ってくれてありがとう!」
・・・なーんと。
私たちの他にも、アメリカ人の教える
「グローバルトレーニング」に
不満を持っていた人たちがいたのでした。
そのさんの発言の顛末を見ていた
スイス人のDさんもニヤッと笑っています。
「Good job, Chieko!」
これは、後から知ったことなのですが
アメリカ人の中にも
「パスポートを持っていない」
つまり
「アメリカを出たことがない」
という人がたくさんいるのだそう。
アメリカ人のパスポート保有率は「35%」
というデータがあるそうです。
(ちなみに日本は25%くらいらしいです)
ということは?
↓ ↓ ↓
そのさんの限られた体験から
壮大な結論を導き出すのは
無理があるので、
これはあくまでも一個人の意見として。
アメリカ人の考えるGlobal、
って本当に「グローバル」なのかな?
って、疑ってみたほうがいいこともある、
ということ。
グローバルに働く、って
単純なことではないのですね。